要旨【目的】特発性脊髄硬膜外血腫は，神経学的に緊急を要する比較的稀な疾患であり，救急現場で対応に苦慮することも多い。急性期の臨床的特徴を明らかにすることにより早期診断・治療の一助となることを目的とし，当院で経験した本症を急性期の臨床判断に焦点を当てて検討した。【対象】2007年1月から2012年10月までの期間に新潟市民病院に緊急入院となった特発性脊髄硬膜外血腫27例について後方視的に調査した。【結果】対象は年齢56～88歳（中央値70歳），男性12例，女性15例であった。全例で頸部や背部の急激な疼痛で発症していた。発症後ただちに当院救急外来を受診し来院時の血圧が確認できた9人のうち7名は血圧高値を示した。22例で疼痛発現後に運動麻痺を来したが，4例は神経症状を認めず疼痛のみであった。初療医によって遅延なく診断がなされたのは15例であった。全例MRIで確定診断され，血腫形成部位は頸椎が17例と最も多かった。治療については，重力に抗することができない高度の筋力低下を認めた15例は外科的治療を選択し，14例で麻痺の改善を認めた。改善を認めなかった1例は，手術までに12時間以上経過した術前完全麻痺の症例であった。【結語】突然の頸部もしくは背部痛を訴えた場合，明らかな運動麻痺を認めなくても，本疾患を念頭に置く必要がある。麻痺症状が高度である場合，早期に外科的治療を行うことで神経学的予後の改善が期待できる。

要旨石灰石貯蔵庫内の埋没事故において，現場出動した医師がクラッシュ症候群を念頭に輸液療法を行った活動を報告する。症例は33歳男性で，すり鉢状に積まれた大量の石灰石の中に立位で鎖骨部まで埋没した。頭頸部は問題なく意識清明，会話可能で，呼吸苦と右下腿痛を訴えていた。直近の救急隊・救助隊と共にドクターカーも同時に出動し，救助隊の救出活動が開始された直後にドクターカーも現場に到着した。ドクターカー医師は直ちに乳酸リンゲル液の急速輸液を開始し，救急救命士と共に救助中も病状を適宜観察した。結果的に13時間に及ぶ救出活動中に，計8.5Lの輸液投与を行い，救出前後に容態悪化なく病院に搬送できた。病院到着時，両下腿に長時間の圧迫による疼痛・腫脹あり，両腓骨神経麻痺と右下腿コンパートメント症候群と診断した。筋逸脱酵素の異常高値とミオグロビン尿を認めたが，腎機能は保たれたため血液浄化療法は施行しなかった。両下腿は保存的に加療して，装具付きで歩行可能にまで回復した。救急救命士の特定行為の拡大により，クラッシュ症候群に至る可能性のある事案に対する病院前の輸液療法が可能になった。現場拘束事案では，救急救命士が現場で輸液療法を開始できるが，継続的な観察や輸液量の判断は容易ではない。救出完了までに長時間を要する拘束事案では，DMATなどの医療チームを早期に要請し，病院前から院内へと治療を継続していく必要がある。