要旨患者は38歳の男性。27歳で軽症の先天性血友病Aと診断され，歯科治療時に1度だけ血液凝固第VIII因子が投与されたが，以後は無治療で出血することなく経過していた。発症までに軽微なものを含めて明らかな腹部外傷歴はなかった。前日からの左上腹部痛を主訴に近医を受診した。腹部単純CTで腹腔内出血を疑われて同日当院へ紹介搬送となった。腹部造影CTで造影剤の血管外漏出像と腹腔内液貯留の増加がみられた。血液検査では，活性化部分トロンボプラスチン時間（activated partial thromboplastin time: APTT）が47.3秒と延長していた。後日判明した血液凝固第VIII因子活性値は21.9%であった。軽症血友病Aに合併した外傷などの明らかな誘因のない腹腔内自然出血と診断し，血液凝固第VIII因子製剤を4,000単位投与した後に血管造影検査を行った。しかし，明らかな血管外漏出像はなく，動脈塞栓術は行わなかった。その後再出血はなく，第11病日まで補充療法を継続した後，第14病日に軽快退院した。軽症血友病A患者に外傷などの誘因の明らかでない腹腔内自然出血が起こることは非常に稀である。このような腹腔内出血で止血を得るためには，APTTを指標とした早期の血液凝固因子製剤の投与が重要と考えられる。

要旨【目的】当院では小児頭部外傷例を多く経験するが，abusive head trauma（AHT）は死亡例や機能予後不良例が多く対応に苦慮する。しかしながら，AHTの予後についての検討は進んでおらず，退院時の神経学的転帰不良例の臨床的特徴を調査する目的で当研究を行った。【対象】2014年4月1日～2020年3月31日に当科で入院管理を行った小児頭部外傷131例のうち，当院虐待防止チームによりAHTと判定された症例について後方視的に検討した。【結果】対象症例は14例で，月齢の中央値は5.5か月，男児が9例（64%），来院時GCSの中央値は9であった。神経学的転帰良好群（G群）が5例（36%），不良群（P群）が9例（64%）であった。P群では来院前のけいれん重積（p=0.01）と遅発性けいれん発作（p=0.03）が有意に多かった。また，同群では来院時GCS（p=0.04）と初診時pH（p=0.03）が有意に不良であった。来院前のけいれん重積状態は，有意に遅発性けいれん発作を発症し（p<0.01），神経学的転帰不良であった（p=0.01）。【結語】AHTにおける来院前のけいれん重積は，遅発性のけいれんの発症に関与し神経学的転帰不良に寄与する可能性がある。初診時の速やかで確実な止痙と，受傷後1週間程度は入院の上持続脳波モニタリングを行うべきである。