要旨 喉頭麻痺による喉頭感覚低下や声帯の運動障害は,長期にわたる嚥下障害の原因となりうる。頭蓋内・外の種々の器質性病変によって発症するが,原因は多岐にわたり定かではない。集中治療患者におけるICU–acquired swallowing dysfunctionなどによる嚥下障害は遷延することが稀ではなく,誤嚥性肺炎の反復による入院の長期化,高い死亡率が報告されている。今回,遷延する重度嚥下障害に対する治療として誤嚥防止術を選択し,患者のactivities of daily life,ならびに患者と家族のquality of life(以下QOL)の改善が得られた症例を経験したので報告する。症例は80歳代の男性。重症急性膵炎に対して気管挿管を要することなく急性期治療を行い,膵炎の病態は改善した。しかし,続発する喉頭麻痺による両側声帯運動障害と嚥下反射惹起不全が生じ,その後半年以上にわたる難治性誤嚥と繰り返す敗血症性ショックによる多臓器不全に対し,誤嚥防止術を実施したことで経口摂取が可能となり,QOL向上に寄与することができた。集中治療分野において周知に乏しい誤嚥防止術は,音声機能を犠牲にするため慎重な判断を要するが,リハビリテーションや代替栄養法の治療で対処できない重度嚥下障害に対する治療の重要な選択肢となりうる。
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