上腸間膜動脈症候群を伴った成人 Bochdalek 孔ヘルニア 太田 裕之 1) 児玉 泰一 1) 川上 恭平 1) 塚山 正市 1) 藤岡 重一 1) 川浦 幸光 1) 1) 小松市民病院外科 症例は 73 歳の男性で,腹部膨満と嘔気が 1 週間持続するため 2011 年 9 月に当院を受診した.CT で横行 結腸,左腎臓の胸腔内への脱出および十二指腸閉塞を伴う Bochdalek 孔ヘルニアと診断されて,緊急入院 となった.十二指腸閉塞の原因は横隔膜ヘルニア嵌頓により上腸間膜動脈と大動脈の間で十二指腸が狭窄 を受けて上腸間膜動脈症候群を呈しているためと考えられた.保存的加療を 5 日間行ったが症状の改善を 認めないため横隔膜ヘルニア修復術を施行した.左横隔膜背側に欠損孔を認め,大網,横行結腸および左 腎臓が胸腔内に嵌頓していた.臓器の血流障害はなく腹腔内に還納し,横隔膜欠損部を縫合閉鎖した.術 後経過は良好で術後 6 か月現在,再発徴候は認めていない.文献検索上,上腸間膜動脈症候群を伴う成人 Bochdalek 孔ヘルニアの報告例はなく,極めてまれな病態であると考えられた. キーワード:Bochdalek 孔ヘルニア,十二指腸閉塞,release of incarcerated colon and kidney はじめに Bochdalek 孔ヘルニアは主に胎児期において重篤な呼吸循環障害により発症するが,まれに無症状で経 過し成人になって発見され多彩な症状を呈することがある 1 ) 2 ) .一方,上腸間膜動脈症候群は十二指腸水平 脚が上腸間膜動脈と大動脈や脊椎の間で圧迫され十二指腸の通過障害を来す疾患である 3 ) .今回,我々は 胸腔内に大網と横行結腸および左腎臓が嵌頓することにより上腸間膜動脈症候群を来した成人 Bochdalek 孔ヘルニアの 1 例を経験したので文献的考察とともに報告する. 症 例 患者:73 歳,男性 主訴:腹部膨満,嘔気 既往歴:70 歳より糖尿病のために投薬を受けている. 家族歴:特記事項なし. 現病歴:2011 年 8 月に上腹部の膨満感と嘔気,食思不振が出現した.症状が 1 週間持続するため当院を 受診した. 来院時現症:身長 172 cm,体重 65 kg,血圧 106/73 mmHg,心拍数 95 回/分,体温 35°C.上腹部の著明 な膨隆を認めたが,圧痛や筋性防御は認めなかった. 血液生化学検査所見:白血球 11,000/mm 3 ,CRP 1.47 mg/dl と軽度の炎症反応を認めた以外に,動脈血ガ ス分析を含めて特別の異常所見は認めなかった. 〈2012 年 9 月 12 日受理〉別刷請求先:太田 裕之 〒 923-8560 小松市向本折町ホ 60 小松市民病院外科 日本消化器外科学会雑誌.2013;46(2):151-157 症例報告 Key Words: diaphragmatic hernia, duodenal obstruction, release of incarcerated colon and kidney [Jpn J Gastroenterol Surg. 2013;46(2):151-157]