はじめに 神経鞘腫は末梢神経のSchwann細胞から発生す る腫瘍であり,頭頸部や四肢に発生するものが多 く,後腹膜に発生するものは比較的少ない.また 画像上特異的な所見がないため膵や腎,副腎など の後腹膜臓器近傍にできたものは術前に原発部位 の特定が困難な場合もある.われわれは膵腫瘍と の鑑別が困難であった後腹膜神経鞘腫に対し腹腔 鏡下に摘出した1例を経験したので報告する. 症 例 患 者:33歳,女性. 主 訴:エコーで腹部腫瘤指摘(症状なし) . 家族歴:特記すべきことなし. 既往歴:特記すべきことなし. 現病歴:伝染性単核球症による肝機能障害の精 査中,腹部エコーで膵体尾部に連続する腫瘤像を 指摘され,膵腫瘍の疑いで当院へ紹介受診となっ た. 受付:2017年1月31日,採用:2017年6月7日 連絡先 大西 宙 〒236-0004 神奈川県横浜市金沢区福浦3-9 横浜市立大学大学院医学研究科・附属病院 入院時現症:身長 155cm,体重 48kg,BMI 19.9.腹部は平坦・軟で腫瘤を触知せず. 血液検査所見:血算,生化,腫瘍マーカーに特 記すべき異常を認めなかった. 腹部超音波所見:左上腹部に47×32mmの充実 性,境界明瞭,内部エコー不均一な腫瘤を認めた. 腹部CT所見(Fig. 1 ) :単純撮影で腫瘍辺縁に 石灰化と考えられる微小な高吸収域を認めた.造 影早期相で腫瘍は弱く不均一に造影され,平衡相 で淡い造影効果の残存を認めた.腸管,胃,腎, 脾などの周辺臓器との境界は保たれていたが,境 界にfat planeを認めず最も密に接しているのは膵 であったことから膵由来の腫瘍と考えられた.周 辺のリンパ節転移や肺や肝などへの遠隔転移を示 唆する所見は認めなかった. 腹部MRI所見:腫瘤はT1で低信号,T2で高信 号を呈した. 以上より①30代女性,②腫瘍内石灰化,③中心 部の囊胞と辺縁の充実部が混在,などの所見から Solid pseudopapillary neoplasm(以下,SPN)と 診断し,腹腔鏡下膵体尾部切除の方針で手術を施 行した. 手術所見:体位を右半側臥位とし,当科で行っ 内容要旨 症例は33歳,女性.検診の腹部エコーで膵体尾部背側に接する腫瘤を指摘された.CTで腫瘍は径 4.7cmの類円形腫瘍で造影所見などから膵solid pseudopapillary neoplasmが最も疑われたため腹腔鏡 下膵体尾部切除術を行う方針とした.術中所見で腫瘍は膵臓から容易に剝離可能であり後腹膜腫瘍と 診断し腹腔鏡下摘出術を施行した.病理診断は神経鞘腫であった.神経鞘腫は比較的稀な腫瘍である. 本腫瘍は膵臓に接していたが,安全に腹腔鏡下摘出を行いえた.本術式は本疾患のような悪性度が低 い後腹膜腫瘍に対する有用な治療法になり得ると考えられた. 索引用語:後腹膜神経鞘腫,腹腔鏡下手術 症例報告 膵腫瘍との鑑別が困難であった後腹膜神経鞘腫に対し 腹腔鏡下摘出術を施行した1例 横浜市立大学附属市民総合医療センター消化器病センター外科 1) ,横浜市立大学消化器・腫瘍外科 2)A 33-year-old woman with a mass adjacent to the pancreas was referred to our hospital. Computed tomography demonstrated an oval shaped tumor dorsal to the pancreas, which was 4.7cm in diameter.The tumor had a small area of calcification, and faintly enhanced. We planned to perform laparoscopic distal pancreatectomy under the preoperative diagnosis of solid pseudopapillary neoplasm of the pancreas. Intraoperatively, the tumor was easily separated from the pancreas and existed in the retroperitoneum, so we resected the tumor under laparoscopy. Histological diagnosis was schwannoma.We safely performed laparoscopic resection of retroperitoneal schwannoma mimicking pancreatic tumor. This surgical procedure may be useful for resection of a benign or low-grade malignant retroperitoneal tumor.