“…脱炭素社会実現のため,電気自動車や燃料電池自動車の車体軽量化によるエネルギーの 高効率化が求められている.一方,これらの自動車は乗員の安全確保に加えてバッテリーや 水素燃料タンク保護の観点から従来の自動車よりもさらに厳しい衝突安全性が要求される. 自動車の衝突安全部材には,1500 MPa,および 1800 MPa 級超高強度ホットスタンプ材がす でに採用されており 1,2) ,高い衝突安全性を確保している. 一方,高い生産性の観点から,1500 MPa 級超高強度鋼板を冷間プレス加工により自動車 用衝突安全部材に適用されはじめているため,20~30 GPa%の優れた強度延性バランスを有 する第三世代先進超高強度鋼板(AHSS: Advanced high-strength steels)の開発が進んでいる. フェライト(α)-オーステナイト(γ)複合組織を有する中 Mn 鋼 [3][4][5] ,およびベイニティッ クフェライト(α bf )-残留 γ 複合組織を有する transformation-induced plasticity (TRIP)型ベイニ ティックフェライト(TBF)鋼 [6][7][8][9] は 980 MPa 級の超高強度,および 20%を超える高延性を 有するため,第三世代 AHSS として期待される. 中 Mn 鋼は 5 mass%程度の Mn を添加した Fe-C-Mn 系鋼板で,熱延,冷延後に二相域焼鈍 することにより微細粒状 α と残留 γ の組織が得られる 10,11) . この微細組織を有する中 Mn 鋼 の応力-ひずみ曲線は降伏直後のリューダース伸びとセレーション(動的ひずみ時効)を伴 った加工硬化挙動を示す 12,13) .中 Mn 鋼のリューダース変形挙動は画像相関法(digital image correlation: DIC) 11,14,15) ,放射光 X 線回折法 13,16,17) ,走査型電子顕微鏡(SEM)内での引張 試験-その場微細組織観察 18,19) によって詳細な調査が行われており,試験片平行部のマクロ な不均一変形挙動,残留 γ のマルテンサイト変態挙動,および微視組織レベルのミクロ変 形,マルテンサイト変態挙動が明らかとなっている.Wang ら 20) は DIC を用いて中 Mn 鋼の リューダース帯の伝播挙動を可視化し,リューダース変形が生じていない領域ではほとん どひずみは上昇せず,リューダース変形が生じた領域は大きな塑性ひずみが付与されたこ とを明らかにした.また,Han ら 21) は X 線回折法により引張試験片平行部の残留 γ 体積率 分布を調査して,リューダース変形が生じた領域はリューダース変形が生じていない領域 よりも残留 γ 体積率が低下したことを報告した.さらに,Koyama ら 18,19) は SEM 内引張試 験-その場微細組織観察によりリューダースフロント前方の微細組織変化をミクロレベルで 解析し,リューダースフロント前方ではおもに残留 γ が塑性変形し,残留 γ のマルテンサイ ト変態はオーステナイト (FCC) →ε マルテンサイト (HCP) →α'マルテンサイト (BCC/BCT) の順に生じたこと,およびリューダース変形の生じていない領域では α,残留 γ とも塑性変 形は生じていなかったことを明らかにした.一方,Zhang ら 13,17) は中 Mn 鋼の引張試験-そ の場放射光 X 線回折測定を行って引張試験中の残留 γ 体積率変化,および α,残留 γ,加工 誘起マルテンサイトの応力分配挙動を報告した. 一方,TBF 鋼は Fe-(0.1-0.6)C-1.5Si-1.5Mn (mass%)程度の化学組成を有する鋼板に γ 域焼 鈍,およびオーステンパー処理を施すことによって α bf 母相とフィルム状残留 γ からなる微 細組織を有する.TBF 鋼は連続降伏型の応力-ひずみ曲線を示す.TBF 鋼も中 Mn 鋼と同様 に,これまでに引張変形中の残留 γ 変態挙動 22,23) や塑性ひずみ発達挙動 [24][25][26] ,および応力, 塑性ひずみ分配挙動 24,…”