降水中におけるトリチウム (T) 濃度及び酸素・水素安定同位体比(δ 18 O, δD)の系統的な測定は, 環境動態を把握する手段の一つとして有用である。そこで本総説では,近年(主に 2010 年以降) に日本国内で行われた種々の T, δ 18 O, δD に関する研究を,筆者らの研究も含めて調査した。その 結果,主として以下のことが明らかになった。 (1) 降水中の T 濃度には,"スプリングピーク" をは じめ,明瞭な季節変化が観測された。 (2) 高緯度の地域ほど T 濃度が高くなる傾向(いわゆる緯度 効果)が観測された。 (3) 2011 年 3 月に発生した東京電力福島第一原子力発電所事故に伴って降水 中の T 濃度は一時的に上昇したが,その後同年 5 月以降は平年並みの推移に戻っていることが確 認された。 (4) δ 18 O 及びδD 単独では明瞭な季節的特徴は見られなかったが,これらの値から算出 される d-excess(=δD−8×δ 18 O)においては冬季に高くなる傾向が見られた。これらの結果は,日 本の降水環境が季節ごとの気団の影響を強く受けていることを示唆している。 Key Words: tritium, oxygen and hydrogen stable isotopes, d-excess, precipitation, environmental behavior Vol. 70, No. 1 RADIOISOTOPES tendency that "the higher the latitude of sampling area, the greater the concentration of T (i.e., latitude effect) was also generally observed. (3) It was confirmed that the T concentration in the precipitation temporarily increased due to Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant accident in March 2011. However, the concentration of T has returned to the normal level after May of the year concerned. (4) The value of δ 18 O or δD alone did not show distinct seasonal characteristics, but d-excess (= δD−8×δ 18 O) calculated from these values was inclined to increase in winter. These results suggest that the precipitation environment in Japan may be strongly influenced by seasonal air masses.