バルンカテーテルにより間歇的な止血と損傷部位の特定を行い，救命し得た大腿部刺創症例(Successful use of a balloon catheter for hemostasis and detection of an injured vessel in a penetrating thigh trauma patient with hemorrhagic shock: a case report)

Abstract

要旨動脈損傷は短時間に多量の出血を来すため，対応が遅れると致死的になる。ショック状態の浅大腿動脈刺創に対し，透視下に血管造影用バルンカテーテルを挿入し，出血制御と損傷部位の特定を行いつつ血管を修復し，救命し得た症例を経験した。症例は62歳男性で，誤ってナイフを左大腿部に刺し，大量に出血したため救急通報した。救急隊現着時，意識清明，脈拍90bpm，血圧92/62mmHg。駆血と患部の圧迫で搬送を開始したが出血は持続し，搬送中血圧が70/50mmHgまで低下したため，ドクターカーを運用して搬送となった。病院前で約2,000mLの出血と推定された。搬入時，呼吸数17/分，脈拍64bpm，血圧130/107mmHg，左大腿内側より動脈性出血を認めた。鼡径部の圧迫のみでは出血を制御できず，血行動態維持に補液のポンピングを要し，鼡径部を圧迫した状態では出血源特定のための体位をとれなかった。そこで，圧迫を継続したまま，透視下に右大腿動脈よりバルン付きカテーテルを左大腿動脈まで進め，バルンによる止血を行いつつ，大腿動脈造影により出血部位の確認を行った。引き続き血管修復術を施行し，神経損傷に伴う知覚障害を残すものの救命し得た。鼡径部の大腿動脈から対側の大腿動脈にカニュレーションを行うことは，血管造影の基礎的な技術であり，多くの施設で施行可能と思われる。出血性ショックの際の有効な選択肢として共有したい。