既往のない妊娠初期の妊婦が水中毒による意識障害を呈した1例(Impaired consciousness caused by water intoxication in a previously healthy woman in the first trimester of pregnancy: a case report)

Abstract

要旨水中毒は精神科疾患に合併することが多い。今回，精神疾患などの既往がなく，妊娠初期に水中毒を発症した稀な症例を経験したため報告する。症例は31歳の妊娠6週・初産婦。来院日の1週間前から嘔気，気分不良，食思不振を認め，近医産婦人科でつわりと診断された。その後も食事の匂いを嗅ぐだけで気分が悪くなり，来院4日前からは毎日水のみを5L程度摂取していた。来院日まで著変はなかったが，突然倒れ，呼びかけに反応しなくなり当院救急搬送された。来院時，意識レベルはGlasgow coma scale（GCS）E1V1M3，明らかな神経学的所見は認めなかった。頭部CTで異常所見を認めず，血清Na値 112mmol/L，血清浸透圧 250mOsm/kg/H2O，尿中Na値 8mmol/Lと低値であったため，水中毒による低Na血症と診断し，輸液管理・電解質補正を行った。第4病日に血清Na 130mmol/Lまで軽快し意識清明となり，第8病日に自宅退院となった。妊娠40週4日目に経膣分娩で出産し，母児ともに問題なく経過した。本症例ではとくに既往のない妊娠初期の妊婦がつわりのため，水のみを多量に摂取し，水中毒を発症し意識障害を呈したと推察される。食事摂取不良の妊娠初期の意識障害症例では早期から電解質異常を鑑別することが重要である。