血栓閉塞型の腹部大動脈瘤に合併した急性下肢動脈閉塞症の1例(A case of acute limb ischemia associated with thromboembolic abdominal aortic aneurysm)

Abstract

要旨 血栓閉塞型の腹部大動脈瘤（abdominal aortic aneurysm: AAA）に伴う急性下肢動脈閉塞症（acute limb ischemia: ALI）は，下肢の虚血症状で発症し，救急外来を受診する比較的稀な病態である。今回，血栓閉塞型のAAAに合併したALIの1例を経験したので報告する。症例は74歳の男性。右下肢冷感，運動障害を主訴に前医を受診した。右大腿動脈（femoral artery: FA）の拍動消失と右下肢の色調不良の所見があり，造影CT検査でAAAおよびAAAより末梢の造影不良を認めた。血栓閉塞型AAAによるALIと診断され，手術目的に当院へ転院となった。転院後，直ちにAAAに対する人工血管置換術と右FAに対する血栓除去術を行った。術中の循環動態は不安定であり，虚血再灌流障害により急性腎不全も合併したため，術直後より持続緩徐式血液濾過透析を導入した。しかし，右下肢全体から右臀部まで血流障害は進行し，術後2日目に死亡した。本症例では，血栓閉塞型AAAに伴うALIに対して人工血管置換術を施行したが救命できなかった。稀な病態であるが死亡率が高く，救命のための戦略としてAAA破裂所見の有無により，下肢の虚血時間や虚血再灌流障害を最小限にするための非解剖学的バイパス術も選択の1つとして常に考慮する必要がある。