要旨Capnocytophaga canimorsus感染症は犬・猫による咬掻創感染症の一つであり,多くが敗血症を呈し死亡率約30%に達する。本邦での報告は大変稀であったが,近年報告数が増えつつある。症例は70歳の女性。来院2週間前,飼い犬に右手指を咬まれて数日で自然治癒した。来院前日より発熱・下痢が出現,来院当日12時頃に不穏状態となったため当院へ救急搬送された。血液検査で炎症反応上昇と凝固能障害,およびCTで腸管浮腫と脾臓低形成以外の有意所見を認めず,明らかな熱源は同定できなかった。当初は感染性腸炎による敗血症・DICと診断し,抗菌薬投与含め全身管理を開始した。第1病日より人工呼吸管理を必要としたが,全身状態は経時的に軽快し,第33病日に自宅退院となった。血液培養でグラム陰性桿菌を検出し,犬咬創歴が入院後判明したことから,下痢症状とあわせてC. canimorsusを疑った。第18病日に遺伝子検査で菌が同定され,C. canimorsus感染症による敗血症性DICと確定診断した。本症例は犬咬創後2週間経過しており,受傷痕もなく早期診断は困難であったが,動物咬創歴が診断の鍵となった。感染源不明の敗血症・DICの原因として,C. canimorsus感染症は鑑別に挙げる必要がある。