要旨症例は68歳男性。他院で肝硬変の入院加療中に,食道静脈瘤からの吐血があり,ショックバイタルのため当院へ救急搬送となった。来院時,収縮期血圧60mmHg台と出血性ショックの状態であった。緊急輸血を行いながら施行した緊急上部消化管内視鏡検査(esophagogastroduodenoscopy:EGD)で食道静脈瘤からの噴出性出血を認め,内視鏡的静脈瘤結紮術(endoscopic variceal ligation:EVL)で止血を行った。処置直後より意識レベル低下,SpO2低下,右共同偏視を認め,EVL後の全身CTで下部食道周囲を中心としたfree airと右中大脳動脈領域への空気塞栓を認めた。経胸壁心臓超音波検査では卵円孔開存を確認できなかったが,経頭蓋ドプラ検査で右左シャントの所見があり,何らかの右左シャントを介して脳空気塞栓を起こしたと考えられた。
要旨【目的】重症外傷患者では血液凝固系の異常を来し,受傷直後からD–dimerが高値で推移するため,血栓の指標とな るD–dimerの基準値は確立していない。そこで我々は,静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism: VTE)を早期に発見するため,外傷患者においてD–dimerを用いたスクリーニング基準の有用性を検討した。【対象】2011年から2015年までの間に当センターに入院となった外傷患者455例を対象とした。VTE予防として,入院時より可能な限り全例に対して間欠的空気圧迫法を施行した。当センターのVTEスクリーニング基準は「受傷後5日目以降において,D–dimerが3測定日連続して増加,かつ15μg/mL以上」と設定した。スクリーニング基準を満たした症例に対して造影CTを施行し,VTEの有無を評価した。【結果】観察期間中108例がスクリーニング基準を満たし,そのうち,延べ73例で造影CTが施行され,34例をVTEと診断した(陽性率46.6%)。スクリーニング基準は在院7日(中央値)で満たし,造影CTは10日で施行された。診断時,全例でVTEによる症候を認めなかった。一方,基準を満たさなかった347例全例においても,その後症候性のVTEを認めなかった。【結語】本スクリーニング基準により外傷後のVTEを効率的に検出することができ,この基準は日常診療の参考所見となりうる。