術前化学放射線療法により切除可能となった Crohn 病に合併した 局所進行痔瘻癌の 1 例 木ノ下 修 1) 中西 正芳 1) 村山 康利 1) 栗生 宜明 1) 岡本 和真 1) 小西 英幸 2) 落合登志哉 1) 國場 幸均 1)47 歳の男性で,1996 年より Crohn 病と診断され,痔瘻を指摘されていた.2008 年末に肛門部腫 瘤と肛門狭窄により排便困難となった.肉眼上は肛門 11 時,9 時,7 時方向にそれぞれ径 11 cm,2 cm, 1 cm の可動性の乏しい腫瘤を認めた.腫瘤の穿刺生検を数回行ったが確定診断を得ることができず,肛門 周囲皮膚全層生検により痔瘻癌と診断された.CT と MRI にて骨盤底筋群への広範な浸潤を認め,非根治 切除となる可能性が予想されたため S-1 を用いた術前化学放射線療法(neoadjuvant-chemoradiotherapy;以 下,neo-CRT と略記)を施行した.CT にて最大の腫瘍は長径 3 cm まで縮小し,CA19-9 も 511 U/mg から 9.6 U/mg に正常化した.腹会陰式直腸切断術を施行し,根治切除が可能であった.Crohn 病に慢性痔瘻を 併発した場合,痔瘻癌を念頭におくことが重要であり,neo-CRT は Crohn 病の局所進行痔瘻癌の手術的治 療において根治性の向上に有用であった. キーワード:痔瘻癌,Crohn 病,術前化学放射線療法 はじめに 痔瘻癌は長期間の炎症を繰り返した難治性痔瘻から発生することが知られているが 1 ) 2 ) ,早期診断が困難 であり,骨盤底筋群や骨盤内臓器への浸潤により根治切除が困難な進行状態で発見されることが多い 3 ) 4 ) . 今回,我々は術前化学放射線療法(neoadjuvant-chemoradiotherapy;以下,neo-CRT と略記)が著効して切 除可能となった Crohn 病に合併した局所進行痔瘻癌の 1 例を経験したため,文献的考察を加えて報告する. 症 例 患者:47 歳,男性 主訴:肛門狭窄,難治性痔瘻 家族歴:特記事項なし. 既往歴:1996 年に Crohn 病(小腸大腸型)と診断され同時期より痔瘻を自覚していた.1998 年に上行結 腸狭窄に対して右半結腸切除術,2006 年に吻合部瘻孔および右腸腰筋膿瘍に対して回腸横行結腸切除術を 施行された. 〈2013 年 1 月 16 日受理〉別刷請求先:木ノ下 修 〒 602-8566 京都市上京区河原町広小路上る梶井町 465 京都府立医科大学外科学 教室消化器外科学部門 日本消化器外科学会雑誌.2013;46(6):463-470 症例報告