要旨心肺蘇生後の合併症として腹腔内出血は非常に稀な合併症である。我々は心肺蘇生後に胃の裂創から消化管出血を来し，その治療後さらに遅発性の腹腔内出血からショックに陥った1例を経験した。症例は88歳の女性。既往に脳梗塞があり，ワルファリンカリウムを内服中であった。だんごを誤嚥し窒息から心肺停止に陥り，バイスタンダーにより蘇生された。当院へ救急搬送され入院となったが，第2病日に下血を来し，緊急で上部消化管内視鏡検査を行った。胃体上部小彎に5cm大の裂創を認め，クリッピングにより止血しその後同部位の再出血なく経過した。しかし，第9病日にショックに陥り，CT検査で大量の腹腔内出血を認めた。輸液・輸血でショックを離脱できず，緊急で開腹手術を行い，左胃動脈の末梢枝より出血を認めたため結紮して止血した。損傷の原因は心肺蘇生（胸骨圧迫）による直達外傷が考えられた。その後は問題なく経過し，第13病日にsecond look operationを行い止血を確認し，第34病日に軽快退院となった。心肺停止蘇生後の症例において，胸部はもちろん腹部の合併損傷も稀ではあるが致命的になる可能性があり注意を要する。

要旨平成22年人口動態統計によると，外傷死亡者の傷病部位として胸部外傷は頭部外傷に次いで多い 。胸部外傷を伴う多発外傷患者が，大量輸液・輸血や凝固障害により，他部位の止血処置中に著しい低酸素血症に陥ることは，重症例では稀ではない。これまで，胸部外傷によるsecondary ARDSに対するextracorporeal membrane oxygenation（以下，ECMO）導入の報告は散見されるが，病院到着から数時間以内の超急性期に初療室でECMOを導入することで，良好な経過をたどった2症例を経験したため報告する。症例1は，重症肺挫傷に対する下葉切除中の低酸素血症，低換気に対して術中にECMOを導入した。症例2は，重症骨盤骨折，腸管損傷に肺挫傷を合併し，腹部骨盤手術中に喀血し呼吸不全に陥ったため，ECMO実施下に止血を行った。2症例とも肺実質内に造影剤の血管外漏出像を認め，さらに他部位に複数箇所の止血を要する多発外傷例であり，ECMO導入により止血まで十分な酸素化が得られた。外傷症例に対して，来院から数時間以内に初療室においてECMO導入を速やかに行い，呼吸を担保しつつ止血術を行うことで救命し得た。外傷は，止血が得られれば引き続く集学的治療で十分可逆的な病態もあるため，救命手段の一つとして初療室でのECMO導入は有用な可能性がある。

今号のハイライト hypotension during postoperative continuous thoracic epidural bupivacaine-morphine in patients undergoing abdominal surgery.