要旨【目的】本邦では，敗血症患者のintensive care unit（ICU）退室後の転帰に関する報告は少なく，post–intensive care syndrome（PICS）について，退院後に複数回の評価を行った研究は過去にない。そこで，敗血症患者の1年後転帰と，The 36–item short–form version 2（SF36v2）を用いたPICSの実態を調査した。【対象】敗血症を対象とした前向き観察研究にて，ICU入室後1年間の死亡，死因を調査した。SF36v2は，入院時と6か月後，1年後に評価し，3回連続でデータを得た症例を解析した。PICSは，physical，mental，roleの3つのコンポーネントサマリーのいずれかが10点以上低下する場合とし，その発生率と障害の項数からPICS遷延を検討した。さらにPICSとnon–PICSの背景と治療を比較した。【結果】転帰調査対象90例の1年後死亡は28例，ICU退室後の死因は44%が再度の敗血症だった。SF36v2解析対象40例の1年後のPICS発生率は55%，PICSとnon–PICSの背景と治療に差はなかった。7例は6か月後に複数のPICS障害を認め，1年後もPICS遷延を認めた。【結語】複数のPICS障害の合併はPICS遷延に関連すると推察され，PICS障害にかかわる危険因子の抽出が今後重要であると考えられた。

要旨　LCMとLEVの急性中毒に対し，活性炭投与を含む診療が奏功した症例を経験した。症例はてんかん加療中の66歳女性。LCM 4,600mgとLEV 31,000mgを服用し，9時間後に当院高度救命救急センターへ搬入された。中毒症状として，深昏睡，痙攣，呼吸抑制，代謝性アシドーシス，QTc延長を認めた。気管挿管後，搬入1時間後よりイレウス管から活性炭投与を開始した。搬入時に加えて1，2，6，12，24，48，72時間後に血中濃度を測定し，徐々に低下していることを確認した。搬入10時間で従命可能となり，搬入62時間で人工呼吸器を離脱，第6病日に集中治療室を退室した。LCMとLEVの中毒症状としては中枢神経障害の他，LCMは心毒性から死亡例の報告もある。中毒診療においては，薬毒物の血中濃度をいかに早く中毒域以下にできるかが重要である。今回，活性炭投与を含む中毒診療が血中濃度の低下にどれほど寄与したかを類推するため，単位時間あたりの血中濃度の消失率［elimination rate（%/hr）］という概念を使用した。結果，服用9時間後の搬入であったにも関わらず，搬入から活性炭投与開始までの1時間に比べ，活性炭投与開始後の1時間におけるelimination rateは，LCMは3.2倍，LEVは7倍と高く，活性炭の効果を裏づける結果であった。

要旨Streptococcus suis（以下S. suis）は人獣共通感染症の原因菌で，ヒトに髄膜炎を来す。椎体炎，多発関節炎を併発したS. suisによる髄膜炎の1例を経験した。【症例】50歳台の男性。先行する嘔吐，下痢症状に加え，関節痛と頸部痛が出現して化膿性関節炎，頸部化膿性椎間板炎の診断となり当院へ転院となった。意識障害と項部硬直を認め，髄液検査で細菌性髄膜炎と診断した。人工呼吸器管理とし，抗菌薬療法を開始した。第3病日に椎間板炎，椎体炎，咽後膿瘍に対して感染創掻爬と椎体前方固定術を施行した。血液および髄液からS. suisが同定された。第10病日に抜管し，第13病日に近隣医療機関へ転院となった。本症例のS. suisは，ヒト感染症で過去に報告がない莢膜欠損株であった。【考察】S. suisは，経口摂取や傷口から感染する。莢膜欠損株はブタでは低病原性とされるが，本症例では重症化しており，莢膜以外の病原性を決める因子の存在が示唆される。本邦の報告例は，生ブタ肉との接触が約8割，死亡率は15.4%であった。【結語】髄膜炎に椎体炎を合併した症例では，稀ではあるがS. suis感染症を疑い，病歴聴取することが，起因菌想定や抗菌薬適正使用，今後の患者教育において重要である。