要旨　内因性疾患に対するopen abdominal management（OAM）の適応拡大と高齢化に伴い，高齢者に対するOAM施行の機会も多くなっているが，80歳以上の高齢者に対するOAMの有効性や術後合併症についての報告はほとんどなく，その適応についての判断に必要な症例の蓄積もない。今回我々は，当院で施行した80歳以上の内因性疾患患者に対するOAMの術後成績を報告する。2015年8月から2019 年8月の期間に，80歳以上の内因性疾患に対してOAMを施行した症例について診療録を用いて後方視的に調査し，院内死亡，術後合併症を過去の高齢者の緊急開腹手術成績の報告と比較して考察を行った。対象症例22例のうち，院内死亡は4例（18.2%）であった。術後合併症については全合併症の発生を17例（81%）に認め，Clavian–Dindo分類のIII以上の合併症を10例（47.6%）に認めた。年齢層が高いことと死亡についての関連は認められなかったが，OAMの適応疾患により術後合併症の内容に相違が見られた。80歳以上の内因性疾患患者に対するOAMは他の一般的な緊急開腹術後の報告と比較しても院内死亡率は同等であり，術後の高い合併症率には注意が必要であるが，実施を回避すべき明確な理由は認めなかった。

要旨　近年，わが国における熱中症の発生は急増しており，特に高齢者の割合が多くなっている。高齢者の熱中症の特徴として，多くが自宅などの屋内で日常生活中に発症する非労作性であり，重症度も高い。しかしながら，高齢者は熱中症予防に効果的な冷房の使用をためらう傾向があるとされ，冷房使用で回避し得たはずの熱中症に罹患することが多く認められる。本研究では，都市部における高齢者世帯を対象とし，夏期1日の最高気温と熱中症入院件数との関係を調査した。また，対象地域の高齢者単独世帯のすべてが冷房を使用したことによる追加発電費用と，冷房稼働により減らしうる熱中症の医療費を便益として算出し，費用便益分析を行った。その結果，当日の最高気温が35℃を超える日は，そうでない日に比べて高齢者の熱中症入院件数が4倍近くになることが示された。また，2018年の熱中症救急搬送が最多であった日において，対象世帯全体の熱中症予防に必要な冷房稼働による追加発電分の総費用を，冷房をつけない傾向にあった高齢者の熱中症による期待医療費（便益）が上回り，高齢者単独世帯の冷房使用が費用便益分析上も合理的な予防方法であることが示された。このことより高齢者単独世帯に対して，冷房費用の社会的な補償などの施策が検討されるべきであることが示唆された。近年の熱中症の増加は既に社会的な災害規模にまで達しており，社会全体での対策が必要不可欠である。